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柴又題経寺邃渓園を訪ねる

2020.11.28

突き抜けるような青空の下、映画「男はつらいよ」で有名な柴又エリアに庭園を訪ねた。少し肌寒く、それでいて太陽を浴びるとポカポカするこの季節特有の日、幸せ空気を一杯吸いながら京成線柴又駅で下車。ここから帝釈天まではお馴染みの門前市「とらや」の看板も発見、帰りにはだんごでも買わなければと独り言。映画で見かける鐘楼の横を通って帝釈天にご挨拶。この建物の外部に施した彫刻は緻密で驚くほど広い範囲に彫られており、まさに彫刻ギャラリーの趣である。庭園の案内に導かれながら奥へと進み客殿に到着。入場料を支払い建物に上がると、いきなり回廊が奥まで続く不思議な空間に出会った。

■建物と庭園と回廊
一般の寺院は方丈など建物が敷地の中心にあり、方丈南に白砂の庭園、北に日本庭園を設ける。ここ邃渓園は建物を巡って回廊が一周する大変珍しい設えである。この構成は私が計画に参加した2005年愛・地球博の会場につくったグローバルループ(1周2km程の空中デッキ)と同じシステムを使っているのでびっくり。万博ではこのループをたどりアメリカ、アフリカなど世界各国の地域を繋ぎ、1周すれば世界を一廻りできるという仕掛けになっていた。

普通の建築では発想できないこの回廊は昭和59年(1984)に増築されている。建設理由は庭園鑑賞の便宜を図るためと私は考えるが、とても柔軟な発想で視点の変化が面白い。しかし、客殿に座ると前の回廊を人がぞろぞろ歩くので当然邪魔になる。現在、客殿への入室を禁止しており、これは回廊をつくったから出来たのであろう。庭園の周囲に回廊をつくり、どこからでも庭園を見られるのはサービス精神満点で大いに楽しませてくれる。しかし、どこからでも庭園が見えるのは、つくり手として大変やっかいな事で多くの工夫がデザインに必要である。

そもそも庭園は一方向から見るようにつくられ、四方から見る「四方正面」の庭園はあまり多く存在しない。重森三玲が昭和28年(1953)につくった岸和田城天守閣の広場は「八陣の庭」と命名して周囲から眺めるチャレンジングな庭園である。「邃渓園」は昭和の名庭師「永井楽山」が昭和40年(1965)に作庭したと伝わっており、その後回廊がつくられ今に至っている。庭園の主景である瀧の風情が幽邃かつ物静かであることより「邃渓園」と名付けられた。昭和中期に作庭者の名前が記録されるのは珍しく、飯田十基の師匠松本幾次郎など数名を耳にする程度である。

■庭園を建物側から鑑賞
この庭園が四方正面でつくられていない事は作庭年代からも、庭園のつくり方を見ても明らかだ。客殿の前は芝生広場をゆったり大きく取り、池泉や瀧は後方に配置している。庭園の主要部は建物正面から遠いが、一幅の絵画のように広がりのある庭園になっている。おもしろい事に客殿前面の回廊に、4方ガラス戸の休憩所をつくっている。ここは中に入れば寒い日でも暖が取れて茶が飲め、ゆっくりと鑑賞できる便利なスペースだ。しかし客殿から庭園を眺めるには邪魔になるが、それもひとつの景趣なのであろうか?

回廊の途中に優美な休憩所、亭を配置するのは中国蘇州などの庭園によく見られる。中国庭園の亭は技巧を凝らした装飾を添えているが、邃渓園の亭はなんともシンプルなガラスボックス。存在感を希薄にして庭園との繋がりに比重を置いたデザインは心に伝わってくる。

客殿から見る庭園の主景は順光となりとても美しいが、肝心の池泉や瀧が建物から遠くてよく見えない。その上、樹木が大きくなりすぎて見せたい主要部の池泉や石組が隠れてしまった。特に正面のアカマツは横幅もあり立派な樹形をしているので、適度に枝抜きをしないと樹形が重くなってしまう。さらに、アカマツ特有の赤みがかった幹が隠れてしまうとアカマツらしさがなくなり雅な雰囲気が消えてしまう。1番見せたい庭園の主景である瀧も、高木や低木により隠れてしまい存在が分かりにくい。庭園内は立ち入り禁止、人が入らないのは正解だが近くで見たい庭園愛好者も多いはず。当初は廻遊式庭園であったと推測できるので、瀧に接近するルートを検討できないだろうか。間近で迫力のある瀧を見たいのは皆同じ想いであろう。

■回廊を歩く
さて回廊を一廻りしながら鑑賞することとする。客殿を後にして回廊を左廻りに進むと東端に茶室があり、これが庭園の長軸のランドマークとなっている。この付近では客殿から見た庭園とは違う小さなスケールのデザインに出会う楽しみがある。さらに進むと回廊は折れ曲がり柱のフレームの間から庭園が見え隠れ、ここでも中国庭園のスタイルを思い出してしまった。丁度客殿の反対側に来ると築山と大きな石積があり、それを縫うように回廊は進むが、ここは暗くて湿気のある異空間だ。庭園にはこの様な変化が必要で、空間が持つ多様性を楽しみながら瀧石組の裏側を通り西方の入口に戻る。

私は子供の頃、寺の境内で遊びながら育った。お祭りの時、各々の建築の間に架けた橋で遊ぶ時間が妙に好きで、お祭りが来るのを心待ちにしていた。回廊からの眺めは時空を飛び越して、私の子供時代の思い出と重なり幸せ時間と空間が堪能できた。

■管理運営が庭園価値を高める
先程アカマツについて述べたが、茶室周りの雑木林の手入れも気になる存在だ。雑木類は大きくなるとやっかいなので、思い切って更新させる方法を取るべきと私は思う。この庭園では枝を透かさずに枝先を止めているので、樹木本来からほど遠い姿になっており残念だ。樹木管理については多くの庭園で課題となっているので、有識者が参加して指針を出すべきではないだろうか。特に雑木林風庭園は築かれて40年以上経ている庭園も多くあり、思い切った処置が必要である。

「邃渓園」は石組などの見せ場はあまり多くないが表情豊かな大石をゆったりと組んだ石組の風情は昭和の庭師らしさがでている。庭園に佇んでいると、回廊で1周廻れる庭園を使った面白いイベント提案の誘惑にかられた。客殿前の芝生広場で歌舞音曲付のイベントなどを催し、八方から鑑賞する新しい活用の姿を見たいと思った。

戸田 芳樹

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