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古峯神社庭園を訪ねる-2

2020.11.08

■見所の多い廻遊路
ここからは谷間から取水した流れに添うように導かれて庭園を下る。園路の途中にある四阿は当然眺めの良い場所にあり、樹木越しに見るシーンは美しい。この四阿は眺望以上にまわりの流れ、石橋、園路との組み合わせが秀逸で、ほっとひと息つくには相応しい場所といえる。

四阿を後にして「峯の池」を見下ろしながらかすかな水音に導かれ大瀧に向かう。瀧は高さ6mを越える大規模なもので、池中に浮かんだ大きな礼拝石から迫力のある落水が見られる。瀧は2段となり、近くからは下部の瀧が大きく見え少し引いたところから全体が望まれる。静かな池泉と対象的に激しい水の表現が庭園に変化を与えている。池泉の奥部に瀧を設け水音で人々を誘導する手法は、これ見よがしな一般的な瀧の見せ方より遙かに洒落ている。さらに、狭いアプローチで人数を限って瀧の造形を見せるのは経験を積み自信のある作家にしか出来ない術であろう。この瀧は「龍門瀑」と称されているが、この名は神社に相応しい表現なのであろうか。下段中部に鯉魚石らしきものが見られるが、少々大振りで栄養が良すぎるように見えたがいかがであろう。

瀧を後にして進むと、先程上った城石積が大迫力で迫ってくる。近くなのに威圧感がないのはディテールが秀れており細部に眼が進むからである。順光で見る右手の中島のアカマツの葉も幹も艶やかで美しく、石組とのバランスも良い。丸くおだやかな芝山の間を進むと、お決まりの州浜と燈籠があり、前方に「静峯亭」が見えてくる。このエリアでは中木を使わず低木も低く刈り込んでいるのでシークエンスの見通しは良く、すっきりとして気持ち良い。

■静峯亭からの眺め
静峯亭は規模が大きく座る所もたっぷりとあり、多くの人達が休んでいた。ここは庭園の南端にあり順光で庭園全体を見る最高のポイントで「庭園の近景」「スギ林の中景」「背後の山の遠景」と三拍子揃った素晴らしい眺めである。また目を転ずれば庭園の見所が建物のフレーム越しに眺められるのも楽しい体験である。この様な美景に接する建物のまわりをきめ細かく整備するのも岩城亘太郎の持ち味で、決して疎かにせず美しいスポットを石造美術品を扱ってつくり上げている。秀景を堪能して静峯亭を後に、大振りな手水鉢の脇を通り石橋を渡る。このシークエンスはまるで庭園と別れを惜しむ情景を演出しているように感じられ味わい深い。

そして池に面した明るいスタート地点に戻る。明暗の繰り返し、高低差による景観の変化、シークエンスの演出、どれを取っても匠の技で美しさが満たされている。これだけの規模(桂離宮の1.5倍)の庭園を緩みもなく、つくり上げた晩年(80歳頃)の岩城亘太郎の気迫と技術に敬意を表したい。

■庭園を後にして神社本殿へ至る
つづら折りの帰路も後ろ髪を引かれるように余韻を楽しみながら下っていった。素晴らしい庭園を見た後は感動的な芸術に接した後と同じ高揚感があり、心も体もぽかぽかと暖かく、いつまでもこの状況が続いて欲しいと願ってしまう。

古峯神社の体験も述べなくてはならない。建物は一般的な神社の構成、軸線上に並ぶのではなく、斜面のコンターに合わせる様に並んで配置している。参拝者は階段で上った小広場から拝殿に参拝するが、安らかな感覚が溢れており神々と出会う仰々しさがない。棟を並べた豪壮な茅葺き建物の外観は古風だが、内観は近代的な機能を備えており、住んでみたくなるような居住性すら感じる。一般客の休憩や食事も見晴らしの良い部屋が使われ、合宿なども申し込めるそうだ。このような開かれた神社に私は訪れたことがなく、いつまでも滞在したくなるのは私だけではないだろう。ぜひ参拝して有名な御朱印をいただき、この空間と時間をたっぷりと味わっていただきたいと思った。

■プロローグ
「もてなしの心」と始めに書いたが、古峯神社の持つ「人と社会」への接し方に岩城亘太郎のポリシーが見事に合致したのではないだろうか。古峯神社庭園に半日接して私はこの事に気がついた。京都の文化や茶の湯の世界に精通した岩城の「もてなしの心」は庭園内の建物の多さとその設えに現れていた。食事も出来て見晴らしの良い「峯の茶屋」、山の上の奥まった茶屋「翠滴」、流れや池辺の「四阿」と「静峯亭」、本格的な茶屋や立札の席がある「峯松庵」など、一般客にもイベントにも対応可能な設えが準備され待ち受けている。岩城亘太郎の魂とこの庭園の造形は見事に合致しており、その空間を体験できる私達は幸せである。

 ここで写真を写して下さい。ここでゆっくりとくつろいでください。ここでは美観に驚いてくださいと、懇切丁寧な庭づくりはランドスケープアーキテクトの誠実な気持ちであり、それを40年前に実現させた岩城亘太郎の創造力は凄いもの、その名前はこの世界に永遠に残らなければならない。

戸田 芳樹

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