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古峯神社庭園を訪ねる-1

2020.11.08

念願であった古峯神社庭園を紅葉真っ盛りの11月に訪れた。神社は日光の足元に位置し、最寄りの鹿沼駅からバスで1時間程の旅、きっとひなびた里だと思っていたが大変な人出でびっくり。やはり紅葉シーズン、大勢の参拝客や観光客が押し寄せて華やかな賑わいに包まれていた。
古峯神社庭園は1978(昭和53)年、岩城造園の岩城亘太郎(1898-1988)の大規模(8.25ha)な作品でスケール、内容とも氏の代表作といえる庭園である。岩城亘太郎は植治こと小川治兵衛の甥に当たり、京都で修行した後に植治の伝統を受け継ぎ東京で会社を設立した。昭和の未だ早い時期に関東で京都風庭園をベースにした新しい造園世界を築いた人である。

岩城は造園作品をビジネスモデルとして活動の場を広げ、戦後の日本の復興期に合わせるかのように会社を大きく発展させた。岩城造園で行う新入社員研修は古峯神社に宿泊して、庭園の掃除や樹木の手入れをおこない、茶室で「茶の湯」も体験するそうだ。社会人のスタートを切るにあたり誠にうらやましい体験といえるであろう。神殿や庭園などの場において、神域の「気」を胸いっぱいに吸って研修するとは庭師冥利に尽きるというものだ。

■すべてに「もてなし」の空気を感じる
この古峯神社の境内に入り1番強く感じたのは「もてなし」の気配が庭園を含めた全ての空間に張り巡らされていることであった。神域の4km手前に早くも大鳥居が県道をまたいでお出迎え。その後、鳥居を4ヶ所もくぐり橋を2つ渡って庭園に進む。神域をここまで入っても神社特有の緊張感がなく、なぜか優しい空気に包まれているように感じる。この理由は後程訪れた本殿の設えや食事でのサービスの出会いなど、ここでもてなす人々の心に奉仕とその喜びが溢れていたからであろう。

さらに、季節に応じた花の見所、春の梅と桜、初夏のサツキ、ツツジ、花菖蒲、紫陽花、秋の萩や紅葉など、四季折々の風情を提供し、サービス満点の庭園をつくり上げた。そのうえ、庭園は参観料300円の安さで駐車場は無料、これぞ「もてなし」の心意気。これから鑑賞する日本庭園にもその気持ちが溢れていることが伝わってくる。

■庭園までのアプローチ
境内から上って行く庭園へのアプローチには期待感を高揚させる仕掛けがあちらこちらに見えてくる。まず、橋を渡って別世界に足を踏み入れるのは日本庭園の約束通り、さらに周囲の暗いスギ林が心を鎮めてくれる。細いアプローチ路は右に左に曲がり、左方の沢の水音がだんだん自然に入ったことを感じさせる。息の切れかかった頃に庭園入口に到着、その手前の生垣は左方向を隠し、庭園の最奥部だけをちらりと見せている。来園者の期待感を引き延ばす技術はいかにも日本庭園のやり方で学びたい手法だ。

入口部に立つと庭園が全面にひろがり「庭園の近景」「後山の中景」「遠山の遠景」の3景がバランス良く私達を出迎える。この「近・中・遠景」を組み合わせたパノラマの秀景は天龍寺庭園、修学院離宮庭園などに見られる景観構成の基本中の基本、見習いたいものである。ここでは池や石積み、休憩舎などの近景、背後の小さな起伏とスギ、カラマツの中景、その奥に控える雄大な山々の遠景。主たる景が展開した奥行きのある美しさにうっとりとして立ち尽くしてしまった。

■庭園の廻遊をスタート
さて、この廻遊式庭園はどちらから廻るか手前の池「峯の池」を見ながら考えてしまった。右上方に古峯神社庭園の重要なランドマーク、「峯の茶屋」が城石積の上に見えるが、写真で見たものとずいぶん違っている。岩城造園の同行者にその訳を尋ねると、数年前に焼失し新しい建物を建てたそうだ。以前の茶屋は茅葺きで屋根勾配が美しい素晴らしい建物で、ランドマークに相応しい佇まいを見せていたので残念でならない。

気を取り直して人が多く歩いている左廻り、池を左に見ながら峯の茶屋に向かうが意外に園路がきつい。園路の脇にある戦後まもなく植えたであろうスギ林は管理が行き届き、下枝がきっちり整理され美しくてリズミカルだ。左手の池には中島が望まれ、大振りな石組と共にアカマツが5~6本、バランス良く植えられている。アカマツの弧を描いた様な樹冠と傾けて植えた赤い樹幹は優しい風景を私達に届けてくれる。アカマツの植栽と手入れは熟練の技が必要で、京都出身の岩城亘太郎ならではの技術を眼の当たりにした。銀閣寺庭園を引用したであろうアカマツの古典デザインはいつ見ても美しく、いにしえの空気が伝わってくる。

城石積に到達すると数寄屋造りの「峯の茶屋」が待ち受けている。近くで見ると建物の姿は美しく必要な機能も問題なく、ここからの眺望も申し分ない。しかし、遠くから見るランドマークとしては高さと屋根のボリュームが足りず少々残念なのは否めない。

■峯の茶屋周辺のデザイン
 「峯の茶屋」からは池泉を中心とした庭園のパノラマが俯瞰で楽しめる。眼前に広がる「峯の池」と名付けられた池泉の先端に休憩所「静峯亭」が望まれ、庭園長軸のランドマークとしての役割を果たしている。建物を池の長軸端に設置し、池を長く広く見せる技法は日本庭園でよく使われるテクニックである。眼下に見える中島の亀頭石らしき石は頭が外に向いており、これでは亀島かどうか分からない。また対岸にサツキの長い刈り込みの先頭に石を置いた造形が数カ所並んでユニークだが、これも何の表現か不明。池の奥に龍門瀑があるので、それに関連した表現なのであろうかと想像するしかない。

「峯の茶屋」を後にして茅葺き屋根を持つ「翠滴」(茶室)に向かう。ここの露地は敷石と飛石を組み合わせたモダンな佇まいで、職人芸が冴え渡っている。蹲踞は自然石をほんのわずか加工し、素朴な中にも味わいを感じさせる。この空間は池泉の大空間に対して凝縮した小さな空間で寂びた深山の趣が濃厚である。ここは何気なく通る所だが飛石の小さな工夫や敷石のオリジナルな試みが印象を深め、味わい深い空間になっている。

その少し先に進むと中門に出会うが私が逆にきたわけで、本来の露地はここが入口である。中門を出ると背後に広がる斜面は半分が庭園、半分は山の空間として使われた自然と人工が半々のダイナミックな空間で郷愁を誘う。ここには庭園らしい見せ場はないが茶室まわりの緻密な空間から脱出した息抜き空間としてその対比が面白い。しばらく斜面を散策して庭園本体に戻り廻遊をスタート。

戸田 芳樹

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