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目白庭園を見る-2

2020.06.20

■休憩スペースよりパノラマ景観を楽しむ

クライマックスを経てまるで家路に向かうような気分になり、山から下り始めると場面転換の石組が出現。この石組は厳しい表情で立ち塞がり、路を狭くすることで、山へ入る人の覚悟を試している。山側の石は高く、池川は低くてどっしりとした石で高低のバランスを取り、理にかなったデザインである。ここから見通す池の景色は美しく、遠く「六角浮き見堂」が水に浮かび、ビルの存在も淡く感じられる程であった。

先程対岸から見た赤鳥庵の水際休憩スペースは日陰にもなっており、大勢の人がおしゃべりを楽しんでいたが、私にはあまり居心地が良いとは思えなかった。それはスペースが狭く座っている前を人が通ること、建物のバルコニーが頭上まで延びて圧迫感を与えていたからだ。しかし、ここから瀧方向へ振り返った立体的な景色は美しく、石組や山の地形に向かって視線が奥に奥にと引きつけられる。

何といっても見逃せないのが庭園美のパノラマである。水平な池の周りを樹木が取り囲み、都会の喧噪を忘れさせてくれる。さらに庭園美の要素が左から蓬萊島らしき中島、瀧の一部、州浜、舟石、十三十層塔、護岸石組、六角浮き見堂と、これでもかと勢揃いして変化のある景色を楽しませてくれる。

水面を広く見せるために石組は北部の瀧周辺に集中して据えられ、大きな水面を作り出した。中島の護岸立石は小石川後楽園の蓬萊島にある徳大寺石のように平らな石を垂直に立てて存在をアピールしている。

先程見た鶴石組も小堀遠州作、岡山頼久寺の鶴石組に重なって見えてくる。おまけに舟石が「六角浮き見堂」に向かって据えているなど面白さが満開だ。伊藤が古典の庭園をしっかりと見て研究している成果がこの石組からも察せられる。

全体を通じては伊藤節は満載で広島空港の三景園に通じる豪華なデザインを感じることができた。伊藤は小さな敷地において、水平の広がりを主体としたデザインの限界を感じ、垂直性を強調する動的なデザインに切り替えたのではないだろうか。浮き見堂脇の立石護岸、十三重層塔、高低差を付けた瀧石組、先の尖った鶴石組、「六角浮き見堂」に向かおうとする舟石など、伊藤のデザインには天に昇る気持ちが強く表現されていることを感じた。当初、疑問に思えた池を低く設えたのもその効果を増すためであったのであろうか。

私が最初に見た池泉の印象は「調整池」であったが、係員にヒアリングしたところ、水が通常以上に貯まった事はないとの答えであった。池を低くすれば掘削土量も多くなり工事費も嵩むので合理的な計画とは思えない。景観だけの理由でこのような計画に落ち着く訳がなく、手掛かりとして当時の担当者に聞いてみたいものである。

少々疑問は残るが伊藤邦衛独自の世界が展開する目白庭園は小さいながらもじっくりと見る価値は充分にあった。要所々々のデザインは美しく作庭意図も明確に伝わってくる。この時代の作庭家は古典の教養を秘めながら、独自の感性を遺憾なく発揮して「命のある作品」を生み出した。目白庭園は皆さんにも是非見ていただきたい都市の日本庭園であると申しておきたい。

■エピローグ

小さな公園を「ポケットパーク」と呼ぶが、目白庭園を「ポケット日本庭園」と名付けるのはいかがであろう。街区公園のスケールでありながら立派な回遊式庭園となっており、多くの見所をつくり出しているからだ。今回、コロナ禍の中でも多くの人々が訪れて楽しんでいる姿を見ると、もっと身近にこの様な庭園があっても良いのではないかと感じた。日本庭園は贅沢な施設と思われるかもしれないが、建設費は建築の1/10程度で立派な庭園が作れるはずである。さらに建築は50年もすれば寿命が尽きるが、庭園は設備以外の施設は永遠に使用できる。現在でも平安・鎌倉時代の庭園は生きており、私たちを楽しませてくれているではないか。

昔は老人文化として庭園や盆栽、多くの芸事があったが今ではカラオケの貧しい風景になってしまった。子供が少なくなり使われない街区公園の1割でも地域のボランティアの手を借りながら日本庭園に改造してみたい。きれいな空気を吸いながら水面の良気を受け、少しきつい階段を上り下りすれば、元気間違いなしの人々が暮らす街になるのではないか。是非実現してみたい都市の中での楽しみで、ここにランドスケープデザインの意義がある。

戸田 芳樹

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