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目白庭園を見る-1

2020.06.20

■プロローグ

あまり知られていないが豊島区目白に小粒でピリッとした日本庭園がある。JR目白駅から閑静な住宅地を池袋方向に進んで5分程、塀に囲まれた大きなみどりが現れる。お屋敷の様な佇まいは存在感充分で、入り口は立派な屋敷門。思わず入場料を払おうとしたが何と無料。とても気分を良くしてパンフレットを確認すると、公立学校共済組合住宅跡地に平成2年(1990)に建設した都市公園で、児童公園と呼ばれる(現在は街区公園)スケールの日本庭園である。作者は名匠:伊藤邦衛、脂の乗りきった60代の作品で大いに期待して庭園に入った。

■小さいながらも回遊庭園

玄関の長屋門は左右に管理スペースを加えたバランスの良い建物。入口のフレームに入った庭園の姿はほの暗く日本庭園の雰囲気が充分にうかがえる。正面奥にある和風の建物「赤鳥庵」に向かってわずかな勾配で上がるアプローチは美しい。赤鳥庵は文芸雑誌「赤い鳥」に因んで名付けられたもので、集会や茶会などを申し込めば利用できる施設である。
雑木林の入り口部からは右方向のスペースが開いており、池も眼下に見えるので自然とその方向に歩みを進める。水面は意外と低く抑えられ、別世界に入る雰囲気を醸し出している。池に向かった階段とスロープのアプローチは、公園として作られた日本庭園なのだと改めて認識させてくれる。正面東南の隅に「六角浮き見堂」と名付けられた四阿が池に張り出して設置。ここから池の北西に向かって対角線上に長軸を設け、庭園を深く大きく見せている。これは小さな庭園に大きな景観を作り出す技法で、その効果は充分出ており、これぞ伊藤のダイナミックビューと名付けたい景観である。

四阿は六角形の親密な空間で居心地が良いのであろう、このコロナ禍の中でも休憩する利用者はほとんど動かない。四阿の脇に立石が見事な集団護岸石組があり、「六角浮き見堂」からの眺めを受けるのと同時にゾーンの切り替えに用いた石組のようだ。この庭園では入り口や山路、瀧などの景観が変化する所に石組を設え、利用者に何気なく空間が移行するサインを送っているので、見落とさないようにしたい。

さて四阿を過ぎると上り坂になり、山に向かっていることを示唆している。その途中、入り口でちらりと見えた「赤鳥庵」が驚くほどの大きさで池の対岸にドーンと現れる。庭園にある建物は「見る、見られる」の関係をいつも持っているが、このスケール、配置、かたちはどうにもいただけない。まずこの庭園のスケールに対して大きすぎないだろうか。さらによく見ると形が単純すぎて陰影もなく周囲の景色に溶け込んでいない。

決定的なのは3m近い建物の下部壁である。ここは床下の様な場所を休憩スペースとしており、大勢の方が利用している。座ってみると見る側にとって庭園の全体が視野に納まり都合が良い。しかし、ここは見られる側でもあることを忘れてはいけない。視点場を目立たなくするのが日本庭園の約束事ではなかっただろうか。伊藤と豊島区との間でどのような話し合いが持たれて建築計画が決まったのであろうか。区から要求された建築面積が大きすぎた結果ではないかと推測した。数多く伊藤の作品を見てきたが、建築が庭園のプロポーションを破綻させている姿を初めて経験することとなった。

■山路から三段の瀧に至る
気を取り直して山路を進むと十三重層塔が見え始めた。これは集落の最後の建物のメタファーとして置いたと思われる。この石塔は現代の作品だが、基壇の格狭間、塔身の四方仏、屋根の反り、いずれも古式に則ったもので美しい限りだ。伊藤の石造美術への審美感が垣間見えたようで嬉しく感じた。層塔から続く山路にはベンチ状の石を置き、峠での一服を促しているようで微笑ましい。

それから先に進むと山路の左右の石組はだんだん険しくなり、遠くから水音が聞こえて来る。階段を下って行くと前方に白く泡立った瀧が現れる。

一般に瀧と呼んでいる垂直に落ちるかたちの名称は「瀑布」と呼び、伝い落ちる状況のものを「瀧」と称していることを知っておきたい。それから池方向に目をやると中島が間近に見え、垂直的な石で組まれた折り鶴のような造形は瀧と対になった構成ではないかと捉えた。

クライマックスの瀧は三段式で最初は下段の低い瀧だけが見え、流れの飛石まで進むと糸が流れるような中段の瀧が見え、圧倒的な景色が迫ってくる。さらに対岸の階段を上る途中から振り返ると、上部の豪華な瀧まで見える贅沢な三段構成を体験できる。ひとつの瀧をシークエンスの変化で三態の景色を作ったテクニックは凄いもので「さあ、これを見てくれ」と伊藤が話しているようである。ただ興奮して見ていると流れに落ちてしまうので注意していただきたい。

しかし瀧を鑑賞するベストポイントは階段の途中で、そこに長く居ることができないし、人が通るので落ち着かない。伊藤はこの先に瀧を見せるポイントをさらに用意していた事に気付いた。階段を上ると右手に小さな広場があり、周囲に大きなベンチ状の石がある。その端に行くと上段と中段の瀧を俯瞰するポイントがあった。今は樹木が繁り過ぎて見づらくなっているが、一条となって流れる瀧の美しさは都会に居ることを忘れさせてくれる程であった。

つづく

戸田 芳樹

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