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広島空港に隣接した「三景園」を見る-2

2019.02.15

■山路を登り「三段の滝」に向かう
いよいよ山路に入ると路は狭くなり、足元は険しく渓流の音が聞こえてくるのが心地よい。落葉樹主体の雑木林の中を飛石、階段に従って進むと途中には竹林もあり雰囲気が益々落ち着き、山が深くなってくる。渓流との交差点からは上流、下流共に見通しが良く、美しい樹木が爽やかに足元の飛石の形も面白い。伊藤の遊び心がディテールに次々と現れる。流れはオーソドックスな設えで気色ばったてらいもなく、遠くに滝が見えるが中々近づけない。石組は花崗岩を使っているので白色から茶色系の明るい色で、ダイナミックであるが威圧感はなく爽やかだ。

やっと滝見台に到着すると、そこに高低差14mの見事な「三段の滝」が姿を現す。山道を登った達成感と滝の素晴らしい景観に触れると、誰もがしばしの休息を取りたくなるであろう。
広島県太田町にある、国の特別名勝に指定されている「三段峡」から「三段の滝」は名付けられている。そのスケールは自然の滝のような迫力で見る人を魅了する。水量も多く三段に落ちる様は、手前の樹林から透かされて見え、日本庭園の作法「さわり」の良い事例となっている。「さわり」の樹木はモミジ等が多く使用され、落水の風圧で枝が揺らぎ、動的な滝の景観に雅な風情を付加している。しばしの清涼感を味わい、滝を後に下山することとした。

■下山のみはらしは最高
山からの下山途中、中腹にある観月亭に寄る。名前の如く月見の場所として、9月下旬の観月会には夜間も公開され、ビューポイントのひとつとなっている。ここからの眺望は素晴らしく、樹林に囲まれた三景園のはるか遠くまで見わたせる。風景の中に空港の管制塔が入るのも空港と共に完成した庭園らしい佇まいで微笑ましい。もちろん庭園の景観も抜群で、池を眼下に見る風景はパノラマ写真がとても良く映える。

途中梅林を右手に見ながら下るが、光をいっぱい浴びた春一番の頃にもう一度訪れたいと思う程、魅力的なシークエンスであった。そして池まで下る園路のデザイン、特に石組と階段が見逃せない。園路が交わる所には変化点としてダイナミックな石組を施し、路を分節化すると同時に景を作り込んでいる。緩やかに下る園路も視界を広げながら左右に役石を置き、飽きのこないシークエンスを作っている。

■護岸の石組あれこれ
池畔に至ると中島などに組まれた石組がしっかりと見えて来る。石組に近づいてよく見ると、その力強さに改めて驚く。一般に護岸の石組は何気なく見えて、テクニックが感じられないが、私は一番難しい石組のデザイン・技術だと思う。金閣寺、銀閣寺の護岸は本当に美しいが、中世以降桃山時代を過ぎると石組の質が劣化してくる様だ。

■かの重森三玲は池泉庭園の作庭は避けて通ったし、植治は石を組むというより置くといった方が相応しい庭園を作り続けた。その長い歴史の流れの中で伊藤が日本庭園に挑戦するエネルギーは凄い。石組は護岸という水から守る機能をベースにしてデザインを展開しなければならない。その機能だけで終われば単なる構造物になるし、デザインに重心を置きすぎればうわべだけの安っぽい施設になってしまう。その自然と人工のさじ加減が本当に難しいが、伊藤は軽々とそのハードルを越えている。
ここで伊藤は単体では使いにくい石をまとめて大きく浮き上がるように扱っているが、一歩間違えると素人の稚拙な石組になってしまう。そのギリギリの所を見事に切り抜けているのは、今まで数多くの石組みをした経験の賜と本人のセンスであろう。この様な冒険的な石組は今後あまり出てこないだろうと、残念がりながら感慨にふけった。また中島はシンプルな笹山をバックにした「地と図」の見せ方を見事に捉えたデザインで、石組をくっきりと見せる教材的な事例と言える。

■時間のランドスケープとは
最後に大海に突き出した四阿「月漕亭」に入る。そこでは水面のきらめきが辺りを満たし、海上に浮遊している様な気分が体験出来た。ここから見る対岸の石組には極端に大きな石を設置し、シンプルな護岸にデフォルメを施した、大変興味深いデザインがあった事も記しておきたい。

廻遊をスタートした潮見亭に帰り大海のパノラマをもう一度見ると、なぜか最初に見た時と印象が少々異なることに気がついた。なぜその様に思ったのであろう。私は三景園庭園を長い時間廻遊して、数々の体験を自分の体内に蓄積したのであろう。だから見ただけの単なる「景観」だけでない自分の内に宿った「風景」そのものが自身の中で深化したからではないか、その様な思いに至った。私達が故郷における昔日の出来事を懐かしく思う気持ちとはこの様なものであったはずである。

■エピローグ
三景園は近代の日本庭園としては規模、質、共に完璧に近いものだと確信した。バリアフリー動線は確保されているのも近代の公共空間ならではで、約7,000tの石組も広島県内産の自然石と空港工事で出た石を使い、地産地消を試みている。さらに植栽は山取りの樹木を育てて使い、凜々しく自然な姿を見せ、無駄・無理が全くない。大海の大景観と建築物は馴染みが良く、園路は「海・里・山」を気持ちよく巡り、上部の三段の滝から大海の中島・橋などディテールは流れる様で、密度も高い。要所に四阿を置き、四季の楽しみにもぬかりはない。絵に描いたような立派な日本庭園に巡り会えた喜びと満足を与えてくれた伊藤に感謝しなければならない。

ただひとつ述べたいことは建物「潮見亭」についてである。建物の内部に居るとあまり感じないが屋根の形がどうも重く、水上に設置したシチュエーションの軽やかさが出ていない。私は建築家ではないので具体的な方針は出せないが、屋根の形状に「むくり」を付けるとか、ひさしを設けるとか、また屋根を分節化して軽くする工夫はもっと可能ではないだろうかと思った。今まで何気なく見ていた古建築のプロポーションや、「むくり・そり」のディテール、材質の適切さを学ぶ必要に改めて考えさせられた。まだまだ日本の文化から学ぶべき事柄は多いと思いながら三景園を後にした。

戸田 芳樹

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