[本文はここから]

川端龍子邸を訪ねた-2

2018.05.07

■三頭の龍が住んでいたアトリエの空間
アトリエは柱の無い板敷きの大広間で南北から光が入り、見ているだけでも気持ちが良い。ここでの創作活動は誰もが羨む素晴らしい時間であったと推測できる。そこから母屋に行く園路は右に左に大きくカーブし、まるで龍が動いているようだ。そこで私はこの庭園は龍のモチーフで作られており、三頭の龍がここで活躍しているのではないかと妄想した。

玄関から続く園路の石張り模様は龍のウロコが乾いた「真の龍」。庭園内の園路は玉石敷の龍で中庸の「行の龍」。石組をした流れは湿った「草の龍」。所々で出会う水鉢は龍の水飲み場、「爆弾散華の池」は爆弾ではなく龍が天から落ちた所ではないかと考えた。

面白い空間、デザインに出会うと様々な妄想が浮かんでくるが、それ自体が作者の持つ力量であろう。日暮里の朝倉彫塑館もユニークな庭園だが、ここでもそれに似た空気が漂っている。画家と彫刻家の違いはあるが表現者としての共通の魂や息遣いが汲み取れる。そういえばこの庭園にも朝倉彫塑館の池に置かれた大女体石によく似た女体石があることも伝えておきたい。もっとも女体石に見えるのは私だけかもしれないが。

母屋の南側の縁側、テラスエリアも見るべきものが多くある。建物に近い空間ではより幾何学的なデザインを用い、固くなりすぎるとそれを崩すように自然石を何気なく挿入して空間をまとめている。建物の基盤面、つまり地面と接する部分のデザインは事の外きめ細かい。建物から離れた場所には日本の伝統的な石造美術を使い、遠い風景として作り上げている。近距離の厳しいデザインと遠距離のおおようなデザインを組み立てて表現しているのは龍子が空間を全て掌握している証である。

■細やかなディテールに神が宿る
この庭園では龍子がひそひそ声で語るようなディテールを多く体験できる。アトリエ棟前の水鉢部は園路に急激な遠近法を用い、ダイナミックな奥行き感と方向性を演出している。低い壁を多用しているが、長くて退屈になりそうな部分には自然石を挿入してアクセントを付け、壁端部のデザインも工夫している。庭石は龍子が愛した修善寺の狩野川産で、石組では扱いにくいとされる柔らかな石をシンボル的に一石で扱い、庭園の伝統技術から飛躍した表現を試みている。また、靴脱ぎ石と建物の間に不思議な形をした石を挿入しているが、デザイン、機能とも謎の手法。何度行ってみても飽きる事のない様々な発見が予感される奥深い庭園と出会えたのは誠に幸せであった。

■エピローグ
表現者はジャンルを軽々と超えるという事実を龍子庭園で体験することが出来た。隣接する龍子記念館は建築家が発想しにくい平面プランを実現させ、その中には修善寺に生えている草本と川の石を持ち込み、芸術の営みと自然の営みを合わせて見せる強い表現が心に響く。庭園においても画家としての美意識が庭園技術を軽々と超えて主張し、現実の空間を作り上げた。まさに主語の強い作品なのだが何故か嫌味に感じられない。並外れた美に対する思いが職人達にも伝わり、新しいことを試みた喜びが見て取れる様だ。

制度と利用者の声と技術だけで作られた公園には立ち寄りたくなる楽しみは乏しい。この貴重な作品をみんなで鑑賞し味わい尽くしたいものである。

この後、熊谷恒子記念館(書家)、尾崎士郎記念館(小説家)、山王草士記念館、池上本願寺を見学、見どころ満載の大田区馬込地域であった。

戸田 芳樹

[ここからはカテゴリ内ナビゲーション]

NEWS

  • 株式会社 戸田芳樹風景計画
  • 〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-36-1ミユキビル3F  Telephone:03-3320-8601 / Facsimile:03-3320-8610
  • COPYRIGHT © Yoshiki Toda Landscape & Architect Co.,Ltd. All Rights Reserved.