[本文はここから]

世田谷美術館を見る-2

2017.06.20

■パーゴラに囲まれた静かな広場
地上部に戻り、西部に移動すると大きなヒマラヤシーダが出現、景観領域を分けた光と陰のコントラストが見事である。そこを抜けると大クヌギを中心とした広場に到着する。この大木は従来からある既存樹だが、これら二本を残せたことで建築がよりチャーミングになった。特にクヌギに合わせた建築の配棟計画は見せ場をふんだんに用意している。ここまで樹木を中心においたサイトプランは珍しく、内井昭蔵の自然に対するリスペクトと知恵を大いに感じる事が出来た。

この広場は活動的なスペースでは無く、芝生の柔らかいアンジュレ-ションを主体とした憩いの場である。建築の前面にパーゴラを連結させ、外と内の中間領域を設えているのが特徴だ。このクヌギの広場は円形のデザインを展開しているが、強調している部分と反対に邪魔している部分を意図的に作っているのが面白い。舗装の円形に合わせ、リュウノヒゲと低い石材を用い、硬い舗装、柔らかい植物、硬い石材、柔らかい芝生と円を重ね合わせて強調している。又、外からのカーブと円が接する所に大きな自然石を大胆に配し、まとまりすぎたデザインをデフォルメしている。庭園作家らしい手法を大きなスケールの中で展開している良い事例である。

建築の西端はレストランで丁度結婚式の披露宴のさなかであった。幸せな空間はいつ見ても楽しいものだが、ランドスケープにより質が大きく向上するものだ。ここでは背景となる砧公園の深い緑がテラスの空間を支え、奥行きのある美しい風景となっている。

■エピローグ
世田谷美術館を見て行くにつれ、ここのランドスケープは建築家主導で進められたのではないかと私は思った。建築のサイトプランそのものがとてもランドスケープを意識し、砧公園の持つ自然の力をうまく受け止めているのがよく分かる。建築のファサードも変化に富み、空間スケールを分節したヒューマンな佇まいも好ましい。建築内部のシークエンスもとても魅力的で、所々に外部と接するスペースや窓を用意し、外と内との関係性を豊かにしている。外部からも玄関へのアプローチ、滝のある地下広場への誘い方等、技巧的だが自然に利用者を導いている。

では野沢はここで何を主張して何を作り出したのであろうか。美しいし、納まりも丁寧だが主張が見えて来ない。ここで私はふと映画の名作「東京物語」の監督であった小津安二郎の言葉を思い出した。「役者は自分を表現するのではなく、自然体でいて欲しい」、映像の中で役者の個性を主張して欲しくないとのメッセージである。世田谷美術館のランドスケープでは野沢の個性があまり見えて来ない。内井のメッセージは分かりやすく強く心を揺さぶるが、ランドスケープはそれを大きく包んでいるようでもあり、ぼんやりと対峙しているようでもある。私は個人的に野沢と話した機会もあり、主張の強い人であった記憶があるが、この作品にはそれがない。ほかの多くの作品を見ていないので推察するしかないが、建築を包み込む空気の様なランドスケープで建築家とコラボレーションしたのだろうか。晩年の野沢は仙人の様な雰囲気になり、論理やデザインを構築する建築家にとって本人の存在が自然そのもので、全く別の価値観を感じたのではないか。だからコラボレーションも出来、作品が生まれたのであろう。

野沢の書物は読めば読むほど謎が多く、複数の目で丹念に受け止める必要があると思う。爽やかな初夏に少々重たい課題と向き合うことになった。

戸田 芳樹

[ここからはカテゴリ内ナビゲーション]

NEWS

  • 株式会社 戸田芳樹風景計画
  • 〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-36-1ミユキビル3F  Telephone:03-3320-8601 / Facsimile:03-3320-8610
  • COPYRIGHT © Yoshiki Toda Landscape & Architect Co.,Ltd. All Rights Reserved.