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世田谷美術館を見る-1

2017.06.20

■プロローグ
久し振りに世田谷美術館に行ってきた。広大な砧公園の一角に位置し、周辺の樹々と調和した建築家:故内井昭蔵(1933~2002年)の代表作である。1985年竣工、30年も経ているが古さを感じさせない姿は、考え抜かれたプランやディテールの積み重ねがあったからであろう。ランドスケープデザインを手掛けたのは故野沢清(1932~2006年)彼にとっても代表作である。

■世田谷美術館へのアプローチ
アプローチは公園に隣接する卸市場に近いバス停から進み公園に入る。この南に進むアプローチ道がなかなか良い空間になっているが、野沢がこの部分をデザインしたかどうかは分からない。入口のほんの小さなたまりの前面は常緑樹を両側に配した入口を締める役割は定石通りである。園路のエッジ部に縁石が無く、広めの排水スペースから舗装が浮き上がって見え気持ち良い。手摺りにガードパイプを使っているのが問題、庭園や公園の空間に土木ディテールを持ってきてはアウトである。

美術館と平行しながら南へ、園路上部をモミジが覆い新緑が美しい。秋も良い風情なのだろう。振り返ってみれば清掃工場の煙突がランドマークになっている。

小さな広場に出て北向きに美術館の方向に進む。光の当たる側から建築へのアクセスは基本であるが、気持ちの良いアプローチである。建築の背後からアプローチして一旦南側に小さな広場を作り、逆に北に向かって進む方法は、軽井沢のセゾン現代美術館や安藤忠雄の建築でも見られる。美術館へは少々長いアプローチとなり、歩みを進めながら心の切り替えをして欲しいと、建築家が願ったのであろう。建築は2階建て、威圧感が無くボールトの屋根が優しく連続し、壁面のデザインも光の陰影が美しい。建築の姿は優しいがプランは幾何学的な構成。それに対しランドスケープデザインは入口から有機的な曲線を多用しており、これで建築とのバランスが取れるのか少々不安がよぎる。

■建築とランドスケープの間合い
美術館の背後に見える大きな建物は後に建てられた市場であるが、この景観の変化は予測されていたのだろうか。東京都が管理する砧公園に世田谷区が建物を計画するケースでは当然敷地の端部を与えられるだろう。だから外部の変化が景観に悪い影響を与える可能性を考えなくてはならない。しかし、広場に植栽したケヤキが大きくなり市場の建築をかなり隠す幸運に恵まれた。建築の前面に樹木を入れたくないと主張する建築家は多いが、内井が樹木を受け入れたおかげである程度の美しい景観が維持できた。この様な希なケースを建築家と協働して数多く実現したいものである。

美術館入り口部は階段とスロープ構成し、建築の領域に入ったとたんにストライプの強いデザインを提示。広場は「土」の様に方向性をデザインしない素朴な洗い出し系のぼんやりした舗装なので、この対比がかえって面白い。建築は壁面の手前にもう1枚のスキンを挿入する手法を用い、三角形をモチーフとした藤棚を連続して表現している。その結果、建築が大きく威圧的に見えず分節化され、プラン共々ヒューマンスケールなのが世田谷美術館の見所のひとつである。内井とコラボレーションした野沢は楽しい時間を持てたのだろうと羨ましく感じた。

広場の縁は土留めを兼ねたベンチが曲線を重ねるデザインで作られ、格好の休み場となっている。何気ないデザインだが、ここでの見せ場はベンチの背後の芝生地である。人が入らない芝生地であるが手前の大ケヤキと背景の針葉樹の間をぽっかりと開けて、太陽の光を入れて輝いている。この陰と陽のコントラストは天気の良い日には特別な風景として思い出に残るであろう。

■関根伸夫が作った最高の滝彫刻
この曲線に導かれて地下へおもむくと彫刻的な滝が見えて来る。これは彫刻家関根伸夫の作品で、単体の彫刻よりはるかに空間的で美しく、建築ともマッチしている。滝は2段となり上滝はレースのカーテンの様な滑らかな水のすべり、下滝は水が泡立ち水音も楽しめる変化に富んだ構成である。上滝の落口の延長を長くして水幕厚を薄くし、下滝は水量を多く見せたコントラストが美しい。壁の壁面には凹凸を微妙に付け、光の変化が楽しめる。又、壁のディテールの超絶技巧もあり、工事担当の方々の努力が偲ばれる。

戸田 芳樹

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