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土門拳 記念館を見る-2

2015.02.16

■中庭の立石

イサムノグチ作の彫刻、立石の位置もバランスが良いとは思えない。向かいの回廊に近すぎると私は思う。この位置にした理由は建築の窓や壁のフレームの関係で決めたのではなかろうか。中庭背後の展示棟の左端に窓があり、そこからのフレームによる見せ方を意識したのであろう。中庭と彫刻のバランスから見れば立石はもっと中央に寄せるのが一般解だ。この配置について建築家と芸術家の間で、どの様な会話があったのか興味をそそられる。

中庭のデザインは確かにクオリティが高いが、この写真の様に植物を入れた構図で時々見なければ、少々疲れてくる空間でもある。ともあれ、手前の階段と上部の広場、後方の階段と手摺り、さらに背後の壁面、フレームの連鎖で構築した風景は恐ろしいまでの完璧さを感じる。この繰り返されるフレームによるデザインの展開は、建物に入ってからも写真のフレームにより受け継がれ、不思議な感覚に包まれる。

■もうひとつの庭園

展示棟で土門拳の代表作を懐かしく鑑賞して企画展示室Ⅱへ。ここでは窓枠越しに勅使河原宏作の枯山水庭園が出現する。枯山水とは水を使っていない仮の山水の事である。枯山水は龍安寺を始めとして一般的に水平な空間に砂や砂利を敷くが、ここでは庭園の奧から建物に向かって勾配をつけ、ダイナミックに流している。この様な動的な表現は桃山時代に作庭された京都の真如寺庭園に見られるが、大変珍しい手法である。

平たい玉石で地面を押さえ笹の曲線で平面を形作っている。笹の2つの単曲線を組み合わせたデザインはグラフィック的であり、普通の作庭家の地割りではない。

勅使河原宏は名作「砂の女」の映画監督として知られているが、勅使河原流華道の家元としても活動した人である。だから石や植物の自然要素を生かしながらも、あくまでデザインは人工的にし、両者のバランスをピタリと納めている。この庭園の空間構成は、谷口吉生の感性とぴったり合ったのではないだろうか。

■3つの石の物語

ここで特筆されるのは右手に見える丸っこい石と、わかりにくいが左後方にある黒い石の存在である。

中庭をまたぐフレームブリッジを通った時にはっと気付いたのがこの奥に見える石だ。ここから中庭のイサムノグチの立石と第二展示室庭園の後方の石が同時に見える。この2石は対になっており、どうも男と女の石を表現しているらしい。

イサムノグチの立石は語らずとも男石とわかるし、パンフレットにも彫刻の名称は「土門さん」となっている。勅使河原宏の作庭した後方の石は笹に半分隠れているが、極めて表現的な女石である。いや、女石に見えてしまう。この回廊で隔てた2箇所の男女の石は単なるウィットではなく、人の輪廻や歴史観を物語っているのだろうか。

もうひとつ忘れてはいけないのが、中間に置かれた丸っこい石である。この石はおおらかな気配を発している石で、男女の円満な生活と和合を願って置かれているのではないかと私は思った。建築家谷口吉生と共作者達がこの3石にどの様な意見を交わして、物語を持たせていたのであろうか。

■エピローグ

建物を後にしてもう一度池を周遊した。公園によくある、あまり変化のない典型的なデザインである。園路はほぼ池の汀のラインに合わせて廻り、高低差もなくシークエンスの変化は乏しい。また高木の植栽もほとんどなく、平坦な景観が続くだけである。緻密に計算された記念館の空間に対して、あまりにもデザインの関連性や意図の密度が乏しい。記念館と背後の山との美しい調和を見れば見る程、公園デザインの貧困さを感じてしまった。

戸田芳樹

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