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成城 猪股庭園を見る-2

2014.11.03

■主庭の空間構成術

玄関はカッチリとした正方形の土間で、有機的な玄関空間からの変化が見事である。玄関ホールから居間に入ると南側の扉が全て開かれており、庭園が目に飛び込んでくる。座ると視線が低くなりコケが目に染み、高木に包まれた感覚は大変気持ち良い。その心地良さは素材と形だけで作っているのではない様だ。むしろここに座るまでのスケールの変化と、明暗のシークエンスが寄与しているのではないかと考えた。門から狭い階段を経て広がりを感じる玄関に入る。この玄関の一辺の長さを1Nとすれば、居間の一辺は2Nの長さで4倍の広さとなる。そして生垣に包まれた主庭の一辺は4Nであり16倍の面積となり、等比級数的に空間の広がりを経験する。この広がりのシークエンスと、暗から明へ展開するシークエンスが心理的に働き、訪問者に心地良さと期待感を与えるのである。

もうひとつ重要なのはホールから居間に入った所の視点で、2組の石組と湧水の石組の3点を軸上に重ねている事である。その結果、横への広がりだけでなく奧への方向性も拡張され、広がりのシークエンスがより強調された。またこの低い2組の石組は各々3石から成り、手前は中心に大きな石を、後方は左右を大きな石で、少しだけ高く据えている。この2つの石組は「あ・うん」という日本の美学をさり気なく使った憎い演出だ。

主庭のスギゴケは中央を少し盛り上げて後方の園路を隠している。これは水はけを良くする機能と、園路を歩く足を隠す役割を持ち、用と景もきっちりと押さえた優れたデザインである。しかし、関東でスギゴケを使うのは至難の技である。主庭には京都のようにマツ、モミジを使い日照に配慮しているが、風通りが良いこの地の夏場では特に生育が悪くなる。

こんな時こそ地元の東京農業大学造園科学科の出番だと思うのだが。

■主庭の植栽技法

さて庭園の植栽を述べてみたい。庭園の奧部は常緑広葉樹による「地」の植栽とし、主庭はアカマツ、モミジ、アラカシと樹種を少なくしたスタイリッシュなデザインが展開する。一方、西側の和室、書斎の前はカリン、ウメ、ツバキ、シャクナゲ等、気楽に楽しめる花木を用いた生活空間となっている。主庭の右手のアカマツ3本は中央に向かって傾き、中央の3本と左手の2本のアカマツがそれを受けている。下枝を落として幹の形を見せた8本のアカマツのバランスの良さに庭師のセンスが伺える。

また西側の生垣は巾を厚く柔らかく刈り込み、ソフトな境界を作り、後方の燈籠の火袋を半分程度見せている。これは灯した時に居間から見せる効果をねらった刈り込みの高さであれば素晴らしいアイディアである。

■庭園を廻遊してみる

この庭園は廻遊式として作られているが、あまりゾロゾロ歩くような広さではない。居間から見えた湧水部は現在イベント時だけ水を流すそうだが、少しずつでも流して潤いを表現してもらいたいものだ。湧水の裏側に回ると、居間からの軸がよく確認できるが、反対に居間か見ると低木の背景がなく、湧水の石組が強調されないのが残念だ。

露地は入念に作られており、手水鉢は割れた基礎石を繋ぎ、穴をうがった手の込んだものである。織部燈籠はバランス良く据えられ、飛石等と合わせて申し分のない景色となっている。そして主庭と露地を分ける長尺の光悦寺垣は大きく弧を描き主庭側を広く見せ、露地は先端を狭くして奥行き感を出している優れた意匠である。

■エピローグ

見所の多い庭園であるがじっくり見なければ庭園は何も語ってくれないし、時季を変えればまた新しい発見があるかもしれない。皆さんに是非見ていただきたい庭園だが、田中泰阿弥(明治31年~昭和53年:本名 田中泰治)の事も記憶に入れていただきたい。私はこの仕事は岩城造園が請け、茶室関連に田中泰阿弥が参加したのではないかと推察した。田中泰阿弥は組織を持たず、全国を旅しながら庭園を作った流しの作庭家であった。銀閣寺の石組を発見して修復したり、小川治兵衛の組織で一時修業したり、庭師の中でもある種特別な存在の人であったに違いない。生誕100年を記念して平成11年田中泰阿弥の記念展と記念誌が出されているが、故郷新潟では大規模な作品も残っているので是非とも鑑賞に行きたいものである。

戸田芳樹

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