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玉堂美術館庭園の本質を探る-1

2014.02.06

■プロローグ
秋も深まった頃、久しぶりに玉堂美術館を訪ねた。この庭園の豊かさおもしろさを紹介してみたい。
東京都下、青梅線御嶽駅の近く、多摩川沿いに玉堂美術館はしっとりとたたずんでいる。日本画の巨匠、川合玉堂は昭和19年から32年に亡くなるまで10余年を御岳で暮らし、昭和36年にその画業を記念して玉堂美術館が完成した。

建築は吉田五十八、庭園は中島健、当時の最高の組み合わせで計画は進められた。そして建築と庭園の美しい調和が周囲の自然と呼応し、知る人ぞ知る名作が生まれた。中島健40代の油の乗り切った作庭の本質に迫ってみたい。

■周囲から美術館を見る
美術館は御嶽駅より4~5分の距離にある。駅を後にすれば、すでに美術館のシークエンスは始まっている。見上げれば静かな山々に囲まれ、下方からは多摩川の激しい流れの音が辺りに満ちている。御嶽橋より眼下の美術館を眺め、さらに進むと一気に下る垂直的なシークエンスが出現する。この静と動のコントラストの技法と、俯瞰の見せ方が早くも庭園の作り方を暗示している。
入口の広場は静謐な佇まいを見せ、石積みと階段は手を出せばとどく川石を使い、周囲の景観に溶け込んでいる。土塀や石積みの水平の意匠は人工性を強調しており、わずかな勾配の道や川の自然性と対比させている。一旦下った広場から視線より高くしつらえた階段を垂直に上り玄関に到る。 建物は水平ラインを強調しているが正面は切妻とし、美術館の格式を高めている。

■「垂直シークエンス」の技法
庭園は建築の北側、多摩川寄りに位置し、フラットな枯山水様式である。展示室で観賞した後、建物を出て軒下を移動しながら観賞する構成で、決まった視点場は設けていない。まず私が注目したのが第一展示室から第二展示室へのつなぎ方である。ここは一旦建物を出て次室に入るが、この移行空間に高低差があり第一展示室から枯山水庭園を俯瞰できる。駅からのアプローチ空間で体験した大きな俯瞰に対し、庭園と出会う始めての空間は小さな俯瞰で演出し、はっとしてしまう。この様な技法を取り入れたのは建築家のアイディアなのか、それとも造園家の進言なのか興味深いところだ。

■「入れ子」のデザイン技法
この庭園を語る重要なデザインコンセプトは日本の美術界で古くから用いられた「入れ子」のデザインの引用があげられる。まず多摩川の自然石が塀を乗り越えて庭石となり庭園に進入し、背後の自然林の一部が塀を越えて庭園木となり、人工と自然の境界を曖昧にしている。これは日本庭園によく見られる借景の様式とはまるで逆である。つまり背景として取り込むのではなく、具体的な自然を直接的に取り入れる方法である。ここでは、実際多摩川の水音の効果もあり、庭園に居ながら何処かに連れ去られたような気分にさせられる。

そしてこのコンセプトを暗示するイカダ模様の敷石の存在は、中島が確信犯として仕組んでいる事が見て取れ、思わず「やられた」と呟きそうになる。この敷石は建物に平行、山に対して垂直に打たれた意志の強い造形で、庭園の骨格を形取っているが、ディテールが入れ子となり、コンセプトを暗示していることがよく分かる。

現在、庭園に進入した樹木は太くなり背景が見にくく、入れ子状態の効果が弱くなっているが、西洋絵画で森の中に馬が入れ子状に入った、だまし絵を彷彿させる。中島は他の庭園でも絵画に触発され発想を得たと述べているが、このだまし絵を見てこの庭園を発想したかどうか興味深い。

戸田芳樹

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